私は25年以上、医療現場で患者さんの治療選択の場面に立ち会ってきました。
特に後半の10年近くは、がん専門相談員・がん専門看護師として命に関わる話し合いに同席し、たくさんの相談に対応してきました。

そこで一番大切にしていたことは、「患者さん・ご家族が後悔しないような選択をする」ことでした。
しかし病院内の看護師の力は小さく、制約も多かったため、思うような活動はできなかったと感じています。

今日はそんな経験から、私が実感した治療の選択をするうえで特に大切なこと３つを紹介しようと思います。

1つ目:自分の状況を理解すること

ご自身や家族の病状をできる限り正確に理解することが大切です。
医者や看護師には、一般の方にもわかりやすく説明する義務があります。

しかし残念ながら、その義務を果たしている医療者はごくわずかです。
その上、患者さんやご家族も忙しく働く医療者に遠慮して、詳しい病状説明を理解できるまでお願いすることをためらってしまいます。

そこで大切なのは、説明された内容で印象に残った医療用語や単語だけでも無理のない範囲でメモすることです。
一般的には説明に用いた文書などをもらえますが、医学用語も多く、難解な言葉が多く書かれています。
そこで役に立つのはご自分が書いたメモです。

メモは、ご自分が聞き取れた、あるいはなんとなくでも理解できたことが書かれています。
それをヒントに、帰宅してからインターネットなどで幅広く調べてみることで、提示された治療の利益・リスクなど少しずつ理解が深まることでしょう。

ただし、インターネットには事実もそうでない情報もごちゃまぜに発信されています。
ご自分で得た情報が正しいかどうかの判断には、専門的知識を持った医療者に相談が必要です。

2つ目：病院内の専門家を利用すること

病院内には、意外と頼りになる専門家が存在します。
私のような専門相談員や専門看護師の他にも、苦痛を和らげる専門の「緩和ケアチーム」、栄養面を支えてくれる「栄養サポートチーム」など多職種が協力し合ってチームで活躍している専門家もいます。

かつて、私のところに相談に来られていた患者さんは、主治医や看護師から私の存在を紹介されて窓口にたどり着いていました。
しかし、中には悩みを抱えていても医療者に見落とされ、専門家の紹介を受けずに不安を抱えたまま治療に臨んでいた患者さんも大勢いたように思います。

治療の選択に迷ったり、不安を感じた時には、主治医や看護師に「この病院には相談する人や窓口はないですか？」と聞いてみてください。
外来では知られていない専門家がいるかもしれません。

ただし、このような専門家は都市部に集中していたり、中小規模の病院には配置されていない場合も多いのが現状です。

3つ目：これから何を大切に生きていきたいのかを考える

これは、がんなどの悪性の病気に限ったことではありません。
高血圧や糖尿病にも通じるお話です。

医学の発達で、治療は飲み薬・手術・注射・点滴・放射線など多岐にわたります。
そしてその副作用も同じく多岐にわたるのは当然です。

例えば治療の中には、手先や足先にしびれを起こしてしまうものもあります。
もしその副作用を知らずに、ピアノの先生がその治療を続けたとしたら…。
きっと手先のしびれを起こす治療を選択したことを後悔すると思うのです。

このように、治療を受ける本人が今何を大切に生活しているのか、今後何を大切に生きていきたいのかは、治療の選択においてとても大切なことになります。
治療の説明を受けた時には、本人の意思・思いをしっかり伝えたうえで、治療選択に折り合いをつけてください。

実際の病院の現状は…

病院の医師や看護師など専門職の皆さんは、毎日一生懸命患者さんとご家族のことを思い働いています。
しかし、治療の選択のための面談に多くの時間を割いている余裕はありません。

今回ご紹介した１つめの病状理解のための説明も、次の患者さんを待たせながらの流れ作業になりがちです。
２つめの専門家の利用も限られた総合病院でないと、配置されていないこともあります。
３つめのこれからの生き方については、一緒に考えていきたい気持ちはあっても、それに叶うマンパワーは不足している状態です。

私はこれらの現状に、常にジレンマを感じながら看護師としての仕事をしてきました。
そして、カウンセラーとなった今、その現状の犠牲となる患者さんやご家族をお一人でも救うことができないかと強い気持ちで活動しています。